Dr.宮良

「和」その4

乳がん治療は日進月歩の勢いで進化している。乳がんの教科書など出版された時はもう書いて ある内容が古いこともしばしばある。だから患者とその家族、そして私たちは二人三脚で、常に新しくて正しい治療を選択し、共に歩んで行く。そこには互いが すべてを出し切ったあとの、さわやかな信頼関係がある。

おっぱいにしこりを指摘され、組織検査を受けたあと、結果が出るまでの数日 間は、多分経験した人にしかわからないと思うが、それこそ針のムシロに座る思いだろう。結果説明の日、その不安な気持ちを察し、優しい医者を演じなければ いけないのに、心で詫(わ)びながら、患者にはいとも簡単に「乳がんですね」と告げる。「乳がんは決して大変な病気ではないんだよ」「あなたと一緒に闘っ てくれる仲間がたくさんいるんだよ」ということに早く気付いてもらいたいと思う親ライオンの気持ちになって、あっさりと奈落の底に落としてしまうのであ る。その日から本当の意味で二人三脚での闘いがスタートする。

「私はね、先生、変な話だけど、乳がんになって本当によかったと思っている よ」と外来で、話しかけられることがよくある。奈落の底から這(は)い上がってきた子ライオンたちだ(何故か親ライオンより年上)。乳がんである事実を受 け止め、人間はいつかは必ず死ぬという事実も認めた上で、前向きに乳がん治療を受け、人生を見つめ直した結果ではないかと思う。家庭や仕事も大事にしなが ら、仲間と集い、趣味やおしゃれを生き生きと楽しんでいる。そして彼らは私に続けてこう言う。「もし落ち込んでいる人がいたら、私を呼んでね。先生より何 倍も役に立つから」。この信頼関係は一朝一夕には築かれない。旧盆である。祖先に敬意を払い、万物へ感謝を捧げたい。

●宮良球一郎(宮良クリニック院長)

平成17年8月18日(木)
琉球新報夕刊掲載

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